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2024.08.15

院長ブログ

抜歯について

抜歯について

世の中には歯があるのはいいこと、歯を抜かないのは正義、歯を抜かない歯医者はいい歯医者、みたいな風潮があるように感じます。確かに、ご自分の歯が一本でも多くあれば、それだけより美味しく食事ができることかと思うので、残せる歯は極力残す、ということにはなんの異論もありません。ただ、どうやってもこれは残すのが難しい、という歯や、むしろもう中までがっつりばい菌が入り込んでいて、残しておくことで逆に体にとって悪い、という場合や、最悪顎の骨にまで感染が進んでしまって、今ならまだ歯をとるだけで治すことができるが、放っておくとそのうち歯のみならず骨までとらないといけなくなってしまう、というような事態になることもあります。

つまり歯を残すことのメリットよりもその歯があることのデメリットの方が大きい場合に、患者さんの口腔内の状態を良くすることや、これからのことを総合的に考えて抜歯をご提案させていただくことがあります。

もちろん、なぜ抜歯が必要なのかは十分にご説明し、それでもやはり抜歯はしたくない、抵抗があるということであればそれはご自身の体のことなので、そのお気持ちは尊重して、無理に歯を抜くということはいたしません。

ただ、自分がお伝えしたいのは、何かいま世の中で抜歯がとても悪いことであるかのように思われている部分があるように感じるのですが、そうではなくて、抜歯もれっきとした患者さんの口の中やお身体を健康な状態にするために必要な治療方法の一つであるということです。例えば口の中にグラグラの歯があって物を食べるたびに動いて痛みがある場合には、無理にこれを残すよりは抜歯をしてそのグラグラをとってあげた方が、歯の本数は一本減ってしまいますが、よほど食事はしやすくなるのではないかと思います。

また、そんなグラグラの歯は大抵根元まで汚れてばい菌がこびりついているので、そんな状態の歯をいつまでもとっておくこと自体が体にとっていいことだとは思えません。そのような場合に、抜歯をご提案させていただくことがあります。

今世の中では8020という、80歳で20本の歯を残せるように頑張りましょうという言葉がだいぶ浸透してきていることかと思います。確かに、80歳で20本の歯があることは素晴らしいことですし、是非ともそれを目指してみなさま頑張っていただきたいのですが、あくまでそれはどんな状態の歯でも何でもかんでも20本あればいいというのではなく、健康な状態の歯を20本残す、という意味だと自分は考えています。

グラグラで噛む度に動く歯を20本残していたとしても、お口の中はバイキンだらけで清潔な環境とはとても言い難く、また食事の際もいくら20本ご自分の歯が残っていたとしても、そんな状態では満足に物を咬むこともできないであろうと思うので、それであれば仮に8020は達成できなくても、動く歯は残念ですが抜歯をして、残った健康な歯を支えにした入れ歯なりブリッジなりを入れてあげたほうが、よほど健康的で食事もしやすく、体にもいいのではないかと考えます。

歯を抜く、ということは、ともすれば何か後ろ向きな事のように捉えられがちですが、逆に自分から言わせると、悪いところは残念だけど抜いてしまって、口の中を綺麗な良い状態にしてあしたから美味しく食事をするためのそのスタートなのではないかという風に考えます。抜歯をしないのは良い歯医者、というのは、あくまで時と場合によるのではないでしょうか。