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2024.09.16
院長ブログ
8020と入れ歯の卒業
歯が一本でも多く残っていた方が、健康に大きく寄与するとの意味合いを込めて、80歳で20本の歯を残しましょうという8020運動が叫ばれて久しくなり、現在ではその達成者も50%を超えると言われています。
自治体によっては8020達成者を表彰する制度もあったりして、わりと皆様にも馴染みのある言葉ではないかと考えています。確かに、日常生活がある程度自立している方では、歯が多くある方がその方の全身の健康に寄与することには間違いなさそうですが、日常生活の自立度が少し落ちてきている方にとっては、逆に歯があることによってマイナスとなる面もあるようです。
すなわち、歯の食べ物をかみ砕くという道具としての有用性よりも、かえって感染源としての為害性の方が高くなるような場合もケースによってはあるようです。言い換えれば歯の存在が相対的にその意義をなくしてくる時期、もっと進むと逆にはの存在がリスクとなる時期、歯がない方がひょっとしたら患者さんにとってはいいかもしれない時期とも考えられます。お口の中の細菌は基本的には歯の面に定着して生存しているため、例えば8020達成者のような、残っている歯の数が多い状態で日常生活の自立度が低下してご自身での口腔ケアが困難なった場合に、唾液中の細菌数が多くなり、肺炎や熱発のリスクも高くなるとの報告もあります。このような場合には歯科的な介入によって、極力残っている歯の面に細菌が定着しないよう、定期的かつ継続的な口腔内管理を行い、そのリスクを極力低減させることが重要になってくるかと考えます。
同様に入れ歯に関しても、しっかりとこれを使いこなせるだけのお口周りの運動機能が保たれていれば良いのですが、お口周りがあまり動かず、そもそも入れ歯を許容できる状態ではないのに無理に入れたとしても、あまりその方の役に立つようには思えません。入れ歯を入れたら認知症の症状が良くなった、とか、なんでも物が食べられるようになった、とか、何か巷でことさらに入れ歯の神話的な効能が必要以上に謳われているようにも感じますが、必ずしもそのようなケースばかりとはかぎらず、患者さんのお身体が入れ歯を許容できないような状態であれば、無理にこれを入れずに入れ歯の卒業の時期、と考えた方が、患者さんにとっての負担は少なくなるのではないかと考えます。