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2024.09.14
院長ブログ
入れ歯について
高齢者の入れ歯に関して、歯医者はもちろんのこと、患者さんご自身やそのご家族、介助者等も含めて例えば食事がしにくいのは入れ歯が合わないからだとか歯が抜けたままだからだという風についつい考えてしまいがちです。
そのため、入れ歯の調整や新しい入れ歯の作成をすれば食事ができるようになるとか食形態が上がるようになるのではないかという期待を持たれて歯医者さんを受診されることが多いかと思います。
それもあながち間違いではありませんが、高齢者の場合はそのほかに食事の際に使う舌や頬、口唇、喉の筋力、運動性の低下も一因となっていることがあります。
例えば車椅子を使用されている高齢者の歩行が難しいのは、足がないからとか靴が合わないから、という場合も稀にあるかもしれませんが、そのほとんどが足の筋力が低下しているから、あるいは足の運動性が落ちているから、と言った理由ではないでしょうか。
食事をする、というのもこれと同様で、たとえご自身の歯が残っていても、あるいはいい入れ歯が入っていても、食事をするための筋肉の力が落ちていたり、あるいはそれらをうまく使うことが難しくなっていると、なかなかうまく食事をすることができないものです。(パーキンソン病や認知症、振戦のような神経の変性に伴う運動機能の障害を起こす疾患や脳梗塞後等で麻痺が残っているような状態もその一因となることもあります)そんな患者さんに一生懸命入れ歯の調整をしたり、新しい入れ歯を作ったりしても、それを使いこなす筋肉の働きがもともと少し弱ってきている場合には、なかなかうまく食事をできるようになることは難しいかと思います。
当院では、その方の食事を困難にしている原因をまず探るために、必要に応じて食事の際に使う舌、口唇の筋肉の運動性の検査を行うことがあります。また、これまでにされたご病気や現在治療中のご病気等がある場合にも、お知らせいただけましたら幸いです。
その結果を踏まえた上で、運動性に問題がなければ入れ歯の調整なり新製を行えば食事がうまくできるようになる可能性が高いためそれを行い、運動性に問題があれば逆に調整や新製を行なっても患者さんが期待するほどの摂食状態の改善が望めるかどうかは難しいところだと考えるので、まずは筋肉の運動性を回復させるようなリハビリを行いながら、徐々に入れ歯の対応も行っていくといったスタイルを取ります。
後者の場合には、加齢あるいはご病気による避けられない運動能力の低下といったこともあるので、回復がどこまでできるかは個人差があるため、最終的な目標は咀嚼機能の回復ではなく向上あるいは維持に定め、なんでも食べられることを目標にするというよりは、口から食べる楽しみをこのまま少しでも長く維持していくことを目標にしていきます。
これは口の老いをある程度受け入れてこれとうまく付き合っていくということに通ずるのかもしれません。何れにせよ、その方がなぜ食事に不自由を感じているのか、単純に入れ歯が合わないや歯がないからというだけなのかということをよくよく事前に調べた上で治療に入らなければ、食事のしづらい原因は改善されず、いつまでたっても物が食べにくいといった状況は変わらないのかなと考えています。また、いくら歯が20本残っていたとしても、食事をするための口周りの筋肉の力や動きが衰えていると、やはりせっかく残っている歯をうまく使うことができずに、食事に難儀するということも最近言われつつあります。(足がしっかり二本あったとしても、あるいは人より多く四本ある人がいたとしても、その筋肉が衰えてしまっていて枝のような細い足ではうまく歩くことができないのとおんなじです)そのため、これからの歯科治療としましては、ただ残っている歯の本数のみに重きをおくのではなく(もちろん本数も大事ですが)それに加えて残っている歯をしっかりと使いこなせるように、お口周りの筋肉等口腔機能の維持を行うこと、口の老いという概念も併せて考慮することがより重要であると考えられています。