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2024.08.11

院長ブログ

銀歯について

銀歯について

世の中では今、何か銀歯が親の仇みたいに嫌われているような傾向があるように感じます。

確かに、笑った時なんかに覗くのであれば、銀歯よりは白い歯がいいというのはわかりますが、銀歯も世間で言われているほど悪いものではないのではないかというのが自分の個人的な感覚です。

銀歯は金属でできているので、当然強度があります。最近出てきた保険でできる白い被せ物はプラスチックでできているので、強度は銀歯に劣り、特に男性で硬いものを食べるのが好きな方なんかではその力に耐えきれず、白い被せ物が途中で外れたり割れてきたりすることがありますが、銀歯は基本的には割れることはなく、外れることも白い被せ物に比べれば少ないです。また、白い被せ物は強度が弱いのでそのぶん厚みを確保しなければならず、その厚みを確保するために銀歯より余計にご自身の歯を削らなければいけません。(この点をよく伝えずにやたら白い被せ物を勧める歯医者が多いうように個人的には思います。仮に白のかぶせを入れて早期に割れてきた場合、やっぱり白だと噛む力に耐えきれなかったので次入れるときは銀歯にしましょう、ということになるかと思うのですが、もうすでに白のかぶせを入れるときにご自身の歯をがっつり削ってあるので、仮に銀歯を入れたとしても強度的にはどうなのかなと不安が少し残ります)また、被せ物は基本的に型取りした歯の形に合わせて作っていくのですが、その操作性が金属の場合はめちゃくちゃ良くて、プラスチックなんかよりも細部まで綺麗に再現することができます。また、ある程度のストレス許容量もあるので、多少無理な力がかかってもうまくそれを逃がしてあげることもできます。そして何より、銀歯は昔からある治療法なので、ある程度安定した長期の成績が保証されており(3年で90%,5年で80%の生存率)、一番被せ物の中では信頼性の高い治療法であると言えます。銀歯はずっと銀色なので、確かに見た目はあまり良くありませんが、裏を返せばずっと同じ色をしている、ということは、口の中という過酷な環境の中でも安定して錆びたりすることなく、しっかりとその性質と強度を保っているということになります。口の中の過酷な環境を耐え抜く、という意味では、材質だけで言えば金属が最も被せ物や差し歯には向いている材料だと思います。保険でできる白の被せ物は、ここ10年くらいで保険に導入されたまだ言うなれば試運転段階の治療方法なので、じゃあこれが20年後、30年後どうなるのかということは誰にもわかりません。(必ずしも最新の治療=いい治療、というわけではないかと思います。治療の良し悪しを判断するためには時間軸の概念も必要で、悪い治療はだんだん淘汰されていくので、簡単にいえば残った治療がいい治療です)個人的な感想としては、自費のセラミックなんかはともかくとして、保険の白い歯はやはりだんだんと年数がたってくるにつれて、着色というか変色しているように感じます。表面の色が変色してくる、ということは、ある意味で中に水分を含んでいるということになるため、やはり被せ物の材質も少しずつではあるが劣化はしているのではないか、と思っています。また、先述のように白はその強度が金属よりは弱いため、厚みを確保する目的でご自身の歯を金属の場合よりも多く削らなくてはならず、だとすると、表面的には確かに新しい治療方法なのですが、自分の中ではどちらかといえばたくさん歯を削る古い昔ながらのやり方のように感じてしまいます。

銀歯のよくあるネガティブキャンペーンの理由としては、水銀が含まれていて体に有害だ、とか、安物の金属を使っているので金属アレルギーの原因になる、といったものがあげられます。水銀に関しては、確かに昔の治療法では使われているものもありましたが、今はその治療法はすでに保険診療からも除外されており使用している歯医者は皆無であると考えられることから(実際自分は歯医者になって今年で13年目ですが、その治療法をされている先生および歯科医院は今までで一度も見たことがありません)少なくともこれから新しく入れられる銀歯には、水銀が含まれているものはありません。金属アレルギーに関しては、確かに銀歯の成分にアレルギー反応を示す患者さんもいらっしゃいますが、じゃあ白い被せ物がアレルギーを全く起こさないかというとそういうこともなく、そのプラスチックの成分へのアレルギー反応を持った患者さんも存在します。そもそも、銀歯に使われている金属の主成分は希少な金属で、近年はかなり価格も上昇してきており(時には金の値段よりも高くなることもあるようです)、錆びにくく安定した性質を持つことから、車のマフラーなんかにも使われており、この金属が高価なことを知っているプロの窃盗団なんかは車のマフラーだけ盗んでいったりすることもあるようです。それだけ貴重な金属を使用して作られた銀歯であるので、口の中という過酷な環境に長年置いてても結構性質は安定しており、年月が経っても綺麗な金属色を保ったままで、穴もそうそう簡単にはあきません。(いつまでも金属の色をお口の中で保ち続ける、というのは、確かに見た目的にはあまり良くないかもしれませんが、しかし裏を返せば口の中という過酷な環境の中でも、ずっとその物性が安定している、という意味にもなるかと思います。さすがマフラーに使われるだけのことはあります。)また、近年ではチタンという、インプラントに用いられるようなアレルギー反応を起こしにくい金属を使った銀歯も保険適用されているため、アレルギーがどうしても心配という方にはそう言った選択肢もあります。(チタンもとてもいい金属です。元々は軽くて錆びにくいという性質から、軍用やロケットに使われたりしていましたが、人の体にも優しいということが最近わかってきて、人工関節や骨折したときのプレート固定、歯医者で言えばインプラントなんかにも使われています。何より軽いという性質が、銀歯の材料としては歯に負担をかけることなく装着感も良くていいのではないかと個人的には考えています。ただしこちらは本当に保険に入って1−2年くらいなので、保険の白い歯よりもさらに手探りの状態です。調整が金属の性質上難しいのと、他の口の中の銀歯と反応して軽微な電流が発生しやすいと言われています。自分は昔高見馬場の交差点でタクシーに轢かれて笑右足を骨折してチタンのプレートで骨を止めているのですが、15年くらい経った今でも全然どうもないし金属が入っている感の重さもないし、身をもってチタンの素晴らしさを実感しているところです。ただし本当はプレート入れた半年後くらいに取らないといけないのですが、これからどうなっていくのかも含めて、身をもって人体実験をしているところです笑)

なぜこれほど銀歯が世の中から嫌われているのかを考えたときに、もちろん見た目の問題もあるかとは思うのですが、先にも少し述べた通り、銀歯は主成分に金よりも高い、窃盗団に狙われるくらいの金属を使用していることから、どうしても制作費が高くかかってしまい、歯医者側の取り分が少なくなってくるため、自費はもとより保険治療においても、原材料費のそこまでかからないプラスチックの被せ物を勧める傾向にあるのではないかと考えています。確かに、見た目を重視すればもちろん銀歯よりも白い歯です。そこにはなんの異論もないし、価値観は人それぞれであるので、強度よりも見た目、そのためには歯の削る量が多少大きくなっても構わない、ということであれば、全然こちらとしては白い被せ物を否定するものではありませんし、奥歯まで一応白い被せ物が保険でできるというのはすごく画期的な素晴らしい仕組みだと思います。日本に生まれたことを感謝しなければいけません。しかし、自分がここでお伝えしたいのは、銀歯も悪いことばかりではなくて、いい面もたくさんあるので、はじめから悪いものとして排除するのではなく、患者さんの歯の状態によっては選択肢の一つとして組み入れて考えていただいてもいいのかなということです。希少な金属を使っているため、先に述べたようにこちらの利幅は少なくはなりますが、それでも自分がお口の中を拝見して、この歯は白よりも銀歯の方が長持ちするのではないか、と思った時には正直にその旨お伝えさせていただきます。それでもいややっぱりでも白の方がいい、ということであれば、それは患者さんご自身のお身体のことでもあるので、そのご希望として最大限尊重いたします。しかしはじめから銀歯は体に悪い、みたいな誤った認識をできれば持たないでいただいた方が、ご自身の歯の健康を守るためにはいいのではないかと考えて、それをお伝えしたくて今回これを書かせていただきました。できればもし当院に限らず、かかりつけの歯医者さんから銀歯をお勧めされるようなことがあったら、はなから銀歯を否定せずに、それもまた選択肢の一つとして、少しでも考えてみていただければ幸いです。