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2024.11.16
院長ブログ
歯科における科学と匠
歯科は技術職の一面もあるので、感覚的なあるいは術者のセンスに基づいた匠の技が必要であることは否めないと思います。しかし、そもそもあらゆる処置における行動選択の場面では、術者は自分でも無意識のうちにこれまでの経験則から自分の行動選択を行うための基準となる「理」を見つけだして行動決定を行っているものかと考えます。この、無意識な経験則に基づく「理」を言葉や因果関係によって明文化したものが、いわゆるサイエンス、科学と呼ばれるもののように感じます。
匠の技は、確かに素晴らしいのですが、その人の感覚による部分が多いため、基本的に人に伝えることが困難です。長嶋監督が例えば選手へのバッティング指導の時なんかにバッと打ってグッときてガーンだ!とか言ってるのを選手がぽかーんとして聞いている映像なんかがたまにテレビで面白おかしく流されていることがありますが、要はそんな感じで、基本は何も伝わりません。昔の職人さんなんかは見て学べとか技は盗むものだとかいう風潮があったかと思いますが、歯科にも何か似たようなものがあるようにも感じます。教育や後進の育成という意味だけであれば、まだそのような職人的考え方でも悪くはないのかもしれませんが、患者さんに対する説明という観点から考えると、匠の技は随分と不親切なもののように感じます。なにせその匠の先生の感覚であるため、どれだけ素晴らしい処置であっても言葉でいま自分がどのような処置をどういう理由で行ったかということは、基本的には患者さんに説明することは困難です。
自分が大学病院の口腔外科にいた時に当時の教授が、匠の技はその人一人がいなくなった時に終わってしまうが、科学であれば後進に伝えることができるので、次の世代、そのまた次の世代にも次々と改良されながら引き継がれていき、結果それが歯科医療の発展や患者さんの利益につながるということをおっしゃられていました。歯科医院での不満の一つに、十分な説明がなされなかったというものをよく拝見します。匠の技も大切だとは思いますが、今の歯科業界はまだまだ匠と科学のバランスが悪く、どうしても匠の技ばかりにフォーカスが当てられたり、もてはやされたりする部分があるように思えてなりません。歯科業界を働く方や患者さんにとってより良いものとしていくためには、このバランスの改善も必要になってくるのではないかと考えています。